開催プログラム

『塩野米松流 聞き書き術』

(第1回 森の“聞き書き甲子園”事前研修-平成14年8月27日 塩野米松先生の講義より)

2 『聞き書き』を行う準備

◆心構え・・・話し手に心を開いてもらう為に、その人を尊重・尊敬する姿勢を持つ
 これから相手の方と初めて会って話す時に何が一番大事かというと、まず自分のことをわかってもらうことです。そうしないと、相手は心を開くことができません。これは普段の会話や人との付き合いでも同じです。相手がどんな人かわからないのでは、話のしようがないのです。
 では、自分のことをわかってもらう為にはどうしたらいいでしょうか。それは、まず相手を尊敬することです。たとえば、その人がおじいさんであれば「その歳までひとつの職業を続けて生きてきた」というそのことだけでもすごいと思いますし、その上、僕のような者に、ご自身の人生を話してもいいよと言ってくださっていること自体がすごいことだと思うのです。そういう敬意をこめた態度で『聞き書き』に臨むことで、相手の方も心を開いて話してもいいかなと思ってくれるものなのです。

◆勉強と準備
1.その人のことをよく勉強して知る
 話を聞きに行く前には、できるだけ相手のことを知っておくようにします。特に皆さんの場合は、その人の職業についてほとんど初めて聞くことになる。たとえば石垣を積む職人さんに話を聞きに行くことになったとします。その場合、「石垣ってどんなものだろう」と図書館やインターネットを使って調べる。そうすると、石垣を積むには「ゲンノウ」とか「ノミ」という道具があるとか、その道具は地方によって呼び方も形も違うとか、石を組んで石垣を作ることは、今は法律上規制されていて出来ないから石垣の裏側にコンクリートが塗ってあるとか、いろいろなことが調べた中でわかってくる。たとえ、そういうことだけでも、わかる範囲のことは調べてから話を聞きに行った方がいい。なぜかというと、聞き手が何も知らなすぎると、話し手は相手との会話に興味を持たなくなるからです。『聞き書き』の内容も薄っぺらなものになってしまうのです。

2.質問を用意していく
 皆さんははじめて『聞き書き』をする人がほとんどだと思いますから、質問事項のリストは用意して行った方が良いと思います。質問事項はいろいろなことを想定しながらつくります。自分が文章にまとめるならば、これだけの質問が要るというものを考えておきます。
 その人が何年生まれで、生まれた環境はどうだったか。その人の仕事はどんな材料を使って、どんなふうに物を作るのか。または育てるのか。または捕るのか。道具は、その技の手練法は。さまざま聞くことがあります。
 ただ質問を並べても、相手からの返事が「はい」とか「違います」というだけだと文章にはなりません。できるだけ質問に対して具体的に話してもらわなければならない。紋切り型の質問を繰り返していると、でき上がった原稿はつまらないものになってしまうでしょう。
 質問事項を考えていきますが、相手の答え次第では、新たな質問を追加しなければなりません。
 話をしながらいろいろな事を考え、返事をしてもらった中身に疑問があればすぐにメモをとり、それをまたタイミングよく質問していきます。しかし、上手に聞こうと思ってもなかなか難しいことでしょう。自分のありのままを相手にぶつけて、相手のありのままの答えを引き出す。その為には、こう聞いてこう答えたら次にこういう質問しようとか、はじめは、ある程度、作戦がいるかもしれません。さらに、インタビューの最中に一番困るのは、お互いが黙ってしまうことです。多分、相手は何を話したらいいか戸惑っているのでしょう。そのときは相手が話さなくても、聞き手が話をしなければなりません。自分のこと、家庭のこと、学校のこと、祖父母のこと、場を保ち話し手が心を開きやすくします。こうした事態に対応するのはテクニックではなく、みなさんの真摯な態度と一所懸命さです。

3.録音できているかどうかを確認する
 何度インタビューしても、心配することがあります。テープにきちんと音が入っているかどうか、ということです。実際にインタビューの最中に録音しているはずなのに、中に音が入ってなかったことはよくあります。くれぐれも、テープを回したらすぐにイヤホンを入れて、音が録音されていることを確認してから、話を始めるようにして下さい。

4.テープは途中で止めない
 僕は録音するときには、120分のテープを基本的に使っています。録音テープの質としてはあまり良くありませんが、肝心な話の最中にテープを交換しなくてはいけないことがよくあるので、できるだけ録音時間の長いものを使っています。さらに、どうしても聞き逃してはいけない話を録音する時には、2台のテープレコーダーで、片方は90分の短いテープ、片方は120分のテープを使うことで、テープを交換するタイミングが重ならないようにします。そして、無駄なようでも二人で話をしている間はずっとテープを回し続けてください。お茶が出て「まずひと休みしなさいよ」と言われてもテープは回し続ける。この時に録音を止めてしまうと、いつのまにか話に夢中になって気がついた時には録音していないということがよくあります。また茶飲み話の間に、大事な話をしてくださることがよくあるのです。テープはとにかくずっと回しっぱなしにしてください。

5.電池とテープは新しいものを用意する
 録音機に入れる電池は必ず新しいものを使います。電池容量が少ないと、録音中のテープの回転速度が遅くなる場合がありますので、通常の状態で再生した時にテープの回転速度が速くなったり、声が高くなったりします。聞き取りづらく、何度も聞き直さなければならないので、テープを書き起こすのに手間がかかります。電池と同様に、テープも新しいものを用意してください。こういう消耗品をケチると、貴重なインタビューを書き起こす段階で支障をきたし、あとで後悔することになります。

6.持ち物リスト
 テープレコーダー(中に新しい120分テープ1本と新しい電池をセットしておく)、外部マイク(テープレコーダーにマイクが内臓されている場合は不要)、120分テープの予備2~3本、電池の予備、メモ用のノート、筆記用具、カメラ、写真用フィルム(カラーネガ)、カメラ用の電池。
*デジタルカメラを使う場合は300万画素以上のものを使ってください。最終的に皆さんのレポートを「作品集」として印刷するときに使用する場合、せっかくの写真がぼけてしまいます。詳細を見たいと思ったときに画素数が少ないと確認できないことがあります。

 << 前のページへ                       次のページへ >>